Wednesday, May 13, 2020

最後の客

勤めているホテルがひと月の休業を決めた時、既に予約の入っているお客さんには本人にキャンセルして貰ったり、こちらでキャンセルしたりした。が、一人だけステイ中のゲストに厄介な人がいた。

女性一人のウォークイン客で、もうひと月近く延泊し続けて泊まっていたのだ。それも2日ずつの延長。その度にコンビニで現金を引き出しての支払いだから、かなりの出費の筈だが、案の定、まだ泊まりたいと言う。どうも引き篭もりの鬱状態があるらしく、地方の実家とのトラブルがある上、コロナ禍で行き場がない様子。

しかし、休館だから、どうしても出て行って貰わねばならない。11時のチェックアウトの時間になり部屋から降りては来たが、全く荷物を持っていない。もう少し時間がかかるというので、30分くらいなら大丈夫ですと伝えたが、12時になっても降りて来ない。

やはり、そう簡単には行かないかと部屋のドアをノックした。それから何と2時間に渡って部屋に張り付いての追い出し戦になった。泣いたり、怒ったりする相手をなだめすかし、荷造りの合間に2〜3度廊下に出て待ったり。もうこちらも必死。

当ホテルのスタッフが予約をしてあげた次のホテルに行ってもらうため、何とか1階まで降りて貰い、ロビーに待たせて、外でタクシーを捕まえてあげる事にした。その際、女性ドライバーが良いと言われたが、それは多分難しいと話した。

やっと捕まえたタクシーはやはり男性ドライバー。そこで、また駄々をこねる彼女。いい加減待ちくたびれて立ち去ろうとする運転手さんを引き止め、彼女に頭を下げてやっとの事で乗って貰った。

ドアが閉まり、タクシーが走り出した瞬間、私は内なる歓喜と勝利感で飛び上がりたい程だった。即、フロントに戻り、同僚達と共に、やっと出て行ってくれた!と喜びを分かち合った。何せ、全スタッフが、このゲストにそれぞれに手を焼いていたのだ。

その日の夕方、行き先のホテルのフロントから「挙動不審のあの方は一体どういう人ですか?」という問い合わせがあったらしい。じきに分かりますよ。。。

No comments:

Post a Comment